血管内視鏡を知っていますか?~原因不明の脳梗塞、認知症から老化まで謎を解明する

血管内視鏡とは?

胃や腸を観察する内視鏡はよく知られていますね。なんと1 mmにも満たない血管内視鏡カテーテルがあるのです。

それは器具を細くすればできますよね。いえ、そんなことはありません。血管の中には血流があり、血管内視鏡だけでは目の前は真っ赤なだけです。

それを可能にしたのは、日本で考えられら技術ー血流維持型汎用血管内視鏡(Non-obstructive general angioscopy; NOGA)なのです。

動脈硬化、動脈硬化による病気(脳梗塞、心筋梗塞、慢性腎臓病、下肢閉塞性動脈硬化症)はわかっていたようで、わかっていないことがわかりました。

血流維持型汎用血管内視鏡で生体内の大動脈を観察すると、今までの診断法で考えられていたこととずいぶん違っていました。ということは、診断、治療、予防すべてが変わっていくということです。

それがどうしていろいろな病気の解明に役立つのですか?

大動脈のプラークは普通は飛ばない、無害なものであり、カテーテルや手術をすれば飛ぶものだと信じられてきました。それは、CTやMRI、病理のデータで判定されてきたからです。CTやMRIは体に管を入れなくても3次元画像を作ってくれる素晴らしい機器ではあります。ただ、生体内の細かい変化となると、やはり血管内視鏡に勝るものはありません。心臓病及び疑い症例を調べたところ、80.9%に自然破たんプラークを認めました。すなわち、日々血管壁の汚れが飛んでいるということなのです。

その成分を調べるとコレステロール結晶が大量にあることが分かりました。コレステロール結晶は免疫の分野で先天免疫を起こし、生まれ持って結晶を敵と認識して炎症を起こすことが分かってきました。日常飛散しているプラークという汚れの成分に、炎症の成分も同様に飛散しているわけです。しかもそれは1度の破たんで終わりではなく、数年と継続していることが分かってきました。

でも、飛んでも何も病気を起こしていないように見えますね。しかし、徐々に臓器障害を起こしていくという現象は、認知力の低下であったり、下肢筋力の低下、各臓器の機能低下という今まで老化で仕方ないと片付けられてきたことがこれと関係していると考えられます。すなわち、老化を克服できる可能性があるのです。

Q and A

Q:血管内視鏡は昔海外で使われたもののすぐにすたれたと聞いています。その血管内視鏡のことですか?

A: その昔、心臓の血管(冠動脈)を観察するのにバルーンで閉塞して観察する方法があったようです。閉塞するので危険であったようです。
血流維持型汎用血管内視鏡は、カテーテルの隙間から透明の液体を投与することで視野を得ます。日本で開発されたもので、世界で日本だけが使えます。

Q: 血管内視鏡で大動脈を観察する意味というのは何でしょうか?CTやMRIをすればわかりますね。

A: CTやMRIは体の中に管を入れなくても立体的に構造を表現するという点では優れた機器です。ただ、世界地図と町の地図との違いのようにどれだけ細かく観察できるかでは、まったく比較になりません。また、CTやMRIは静止画像です。血管内視鏡でわかったことは体内で実際に起こっていることです。CTやMRIとの比較ができないと最初は考えてきましたが、比較そのものがあまり意味をなさないと思います。CTやMRIをもとに病気の成り立ちが考えられてきましたが、現在未解決の病気については、血管内視鏡で見えたものをもとに病気の成り立ちを考えなおすことでより分かってくると考えられます。

Q: 血管内視鏡は透明の液体を流して観察するとのことですが、大動脈より圧力が高くないとみえないはずですよね。
そんな水流を大動脈に当てて危険ではないですか?

A:「大動脈より圧力が高くないと見えないはず」というのは思い込みで、目の前だけが透明になればいいのです。
血液の赤さの正体は赤血球であり、赤血球さえどけられれば視野は確保できます。
低分子デキストラン液は粘張度が高く、優しい圧でも目の前の赤血球をはじめとしたものがどけられ、血管壁を観察できます。

Q: 血管内視鏡による大動脈観察は安全ですか?塞栓症とかはないのですか?

A:経験のない施設がいきなり独自の方法で行うのは危険と思われます。認定NPO法人では手技研修会を行い、修了証をお渡ししております。
なお、血管内超音波ガイド下の冠動脈形成術(風船治療)と塞栓の合併症、血液マーカーの変化には差はありませんでした。(Komatsu et al. J Cardiol, 2020).
また、多施設レジストリー研究では致死的な合併症は認めませんでした。

Q:大動脈の直径は3cmとか太いのに、血管内視鏡の直径は1mmもない細さとのこと。それでは、大動脈全体はくまなく観察することはできないのでは?

A:血管内視鏡は0.7-1mmですが、それ単独ではなく、システムは2mmです。また、模型などで確認していただければ、その先入観が過大評価であることはお分かりいただけると思います。中山書店のNOGAマニュアルなどでは詳細に紹介しています。